夢を叶えるプロジェクト2021

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下川織物がビジネスの重点として考えている方向性

依頼主と生産者の制作プロセスの共有と、ある一定の情報の開示により伝統工芸におけるD2Cビジネスモデルの構築を図る。

その一つとして「夢を叶えるプロジェクト」を立ち上げた。

 

概要

一生に一度の大切な記念に寄り添う久留米絣の制作企画。さまざまな人々の人生の写し鏡としてリアルなストーリーに基づいた久留米絣を作る。同時に依頼者の思いと制作者(職人)のプロセスをクロスオーバーさせ共有することで新たなビジネスモデルを確立し、なおかつ事業継続化の道を探る。

 

今回の具体的な取り組み内容

新婦がデザインした柄を久留米絣職人が織りあげて、タキシードとドレスを制作し結婚式で着用する。最低ロットで制作した残りの生地は、新郎新婦の今後の人生のさまざまな場面で使われ続ける。今回作り上げた柄をベースに下川織物のオリジナルとしても生産・販売していく。

オーダーメイドという最高の満足感を伝統工芸で満たしたい

今回の顧客である新郎新婦は、ともに芸大出身で、モノづくりが好き。人生の晴れ舞台である結婚式を行うにあたって、自分たちのアイデアを取り入れて何かを作りたいという強い思いがあった。

服が好き、テキスタイルが好き。そして今後も使っていけるものが良い。タキシードだと普段の何か特別なお祝い事にも着ることができ、また自分の子供にも、その後世にも受け継いでいくことができると思った。新婦は福岡県出身。作るのであれば自分たちの出身地の伝統ある織物であり。その奥行きのある柄は、タキシードにしたら素敵ではないかと新郎新婦は話し合った。

今回制作した図柄の説明

柄名「年輪波(ねんりんは)」

年輪は、一年に一つその輪ができることから幾重にも年月を積み重ねていくという意味で縁起の良いモチーフとされている。夫婦になっても、いつまでも仲良く途切れることなく歳月を重ねていけるようにという願いを込めて。図柄を制作。年輪同士の重なり部分は、波紋状にすることで無限に広がる未来へ続く幸せの願いと平和な暮らしへの願いを込めた。ただの年輪柄ではなく「波紋」も所々に織り交ぜているところがこだわり。久留米絣は綿織物であるが、光沢のある細番手を使用することで角度によって柄が浮かび上がるようなイメージを作る。本来の久留米絣の特徴であるコントラストの強い柄の濃淡ではなく、微妙な色の濃淡で柄を沈ませることで高級感のあるテイストに仕上げて大人の雰囲気を演出した。

デジタルツールを活用した具体的なプロセスの流れ

  • 工場見学

この時点では「見込み客」。ご相談を受け、検討段階。

  • 受注

様々なデジタルツールも活用しながら複数回のコミュニケーションによりお互いの意思を確認し合う。

  • 図案打ち合わせ

これまでの制作のノウハウをフル活用し、図案作成にあたっての手順や注意事項などを各項目にわかりやすくまとめる。基本的にはオンラインによる打ち合わせを数回行う。(今回は、週に一回、1〜2時間の打ち合わせを2ヶ月にわたって行った)

  • 制作

各制作プロセスは、写真、動画撮影し顧客と共有。疑問点などあれば、その都度対応。

  • 幸せの共有

生地完成後も縫製の過程、披露宴での画像など顧客から共有いただいた。企画の立ち上げからストーリーの完了まで可能な範囲でオープン化。

SNS配信、メディア対応など共有の範囲を広げることでビジネスの可能性は広がる。

久留米絣の新たな解釈

結婚式のためだけにデザインされ、一過的に消費されてクローゼットにしまわれるテキスタイルではなく暮らしの身近なところにある寝具やクッション、子供服など日常生活のあらゆる場面で長く使えるテキスタイルを目指している。これは簡単なように見えて実は難しい。「ハレ」と「ケ」の両側面を持つ織物だからこそできる。

久留米絣の特徴

括り技法の維持・継承。そのために括り機械を産地で開発・共有する生産体制の確立。モーターのついた動力織機で柄合わせしながら織る技術は久留米絣のみに残る技術となった。世界で唯一の技術・技法によって織られる織物。

久留米絣の強みは「ハレ」と「ケ」の両側面に対応できる素材であること。久留米絣は農作業着や布団絣に代表されるように風通しの良さや虫除け等の機能を持ち、その風合いの良さからも身近な暮らしのそばで「ケ」の素材として愛用されてきた側面を持つ。それと並行して柄のデザインの巧みさから晴れ着や博多祇園山笠の法被など「ハレ」の素材としても存在感を示してきた歴史を併せ持つ。

「幸せのおすそ分け」から生まれる相乗効果

顧客との対話から生まれる柄から始まるデザイン、括り、染め、製織など一連の工程を画像や動画で残すことで、どれだけの労力と時間を費やしてきたかが可視化でき、220年の歴史の上に積み重ねていることで付加価値が生まれ家族に対する感謝や愛情の気持ちが増幅され動画とテキスタイルを見た人たちとも共感できる。そのため、顧客と作り上げた柄は、アレンジを加えた別バージョンのテキスタイルを作ることで下川織物のオリジナル商品としても市場で展開する工夫を考えた。これは、顧客も望んでいる「幸せのおすそ分け」である。

この一連のプロセスは、消費者と直接対話を通じて商品の機能に加えてライフスタイルの提供を行うという「D2Cビジネスモデル」の本質をなしている。

下川織物のマインド

常に新しい色・柄にチャレンジする環境を保つ。定番商品を開発・生産することで技術の精度をあげていく。同時に常に新たな柄や技術的なアプローチにチャレンジすることで職人のモチベーションを上げる。技術・技能継承の本質は、今ある技(やり方)だけでなく、技の発展の職人のマインド・姿勢や価値観。

歴史に敬意をはらい職人としての天命を全うする。歴代の職人の創意工夫によって生み出された技術と積み重ねられた歴史の上に立っていることを心に刻み技術だけでなくマインドを次世代につなぐ。なんの脈絡もなしに生み出されたものに説得力は生まれない。

久留米絣を未来に向けて継承していくために必要なこと

「生産」 一定量の量産に基づいた経済の循環。

「伝承」 文化や歴史、習慣に基づいた価値観を伝えていく。

 

 

久留米絣織元 下川織物

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